2.用語

データベース「蟲」(むし)の中で使われる用語や説明です。本研究独自の用語を含みます。

蟲体(ちゅうたい) 本研究で見つかる生物遺体やフィールドサイン(脱皮殻やフン等)のこと。「蟲」の字は昆虫外生物(クモやヤスデなど)を含み、古い時代を表す。「漉」「内」「外」をつけて区分に用いる。
区分 古文書(本研究では古典籍等も含む広義の意味)から発見される蟲体を区別するもの。下記の通り3つあり、文書形態と蟲体形状から判別される。

漉蟲体(すきちゅうたい)・・・和紙に漉き込まれた蟲体(当時生きていた生物)

内蟲体(うちちゅうたい)・・・文書の内部から見つかる蟲体(時代性あり)

[天蟲体]:古文書に近づかない種(人的影響における強い時代性)

[地蟲体]:古文書に近づく種(二次的に近づく種[天敵]も含む)

外蟲体(そとちゅうたい)・・・文書の外部(表面や保存用品)から見つかる蟲体(枯死木依存性生物群集や天敵などの生態的知見)

文書年代 各蟲体生息の年代の目安とするもの。漉蟲体はこの年代以前確定。内蟲体、外蟲体の場合はこの年代以降推定。内蟲体、外蟲体では文書年代=該当生物の生息していた年代と考えるのではなく、その年代軸に幅を持たせて、それぞれの古文書の来歴と併せ考察に利用する。奥付や残る限りの情報のほか、奥付欠損で著名な作の場合、一般公開されている書誌情報も参考にしている。また、所有者の直筆内容や家系図から判明する生存年代等も根拠として掲載する。詳細が分かる場合は年月日まで、広範囲は時代区分(近世・近代等)で表記する。
場所 古文書及び文書群の見つかった都道府県や由来を示す地域。
文書形態 区分を決定する要因となる文書の形(文書の形態と部位)。これと蟲体形状(立体か平面)を加えた下記の表によって、区分を決定している。

 

蟲体形状/文書形態 巻本・冊子・折本 継紙 一枚物
立体 外蟲体(微小甲虫を除く) 外蟲体 外蟲体
平面 内蟲体 内蟲体 外蟲体

(※一枚物であっても使用がほとんどない場合「内蟲体」と判断する例外もある)

 

文書形態と部位 紙が層になるもの

 

折目のあるもの

 

折目のない紙

 

文書種類 内蟲体で重要。判明する場合は写本と版本の区別をする。使用頻度が高い本ほど圧死は発生しやすく、特に天蟲体はイベントなどで使用した資料との関係が顕著となる。文書種類における使用頻度の研究はないため、使用頻度については現代とかわらない一般常識(面白い本は使用頻度が高い、専門書は専門家のいる時代に使用される。契約書や手紙など一度読むと次はめったに開かないない等)を想定して考察する。近代以降の文書「近代文書」も基本的にこの8種類に準ずる。

 

古文書 戸籍台帳(法令、土地)・書・覚・掛売帳や懸先帳・大福帳などの帳簿類
手習 所有者が直筆で書いた書・ノート・絵など
日記 各種日記
物品 (各ケースで解説する)
宗教家系 過去帳・御悔帳・家系図など
伊勢暦・九星表など
絵図 地図など
蔵書 往来物・字典・物之本・娯楽本・御成敗式目等法令もの

写本

所有者が用意した紙に原本の内容を書き写した本。全国で紙漉きの興隆に地域差はあるが、基本的には今ほど物流のない時代であると考慮し、地元で入手しやすいルートで手に入れた紙を使用していると想定する(=紙すきの郷が来歴の写本は地産地消と考える)。年代については原本の刊年より後か、大幅に時代が下がる可能性を想定する(後世の書写年が明記されている場合この限りではない)。ここでは版本の対義として、手書きの紙史料はすべて写本とした。

版本

版元で出版された本。写本と違い、製造元に集められた和紙の原産地は不明であるという区別を意味する。写本より刊年が明確な場合が多い。

発見部位 蟲体が本のどの部分で見つかったかを示す位置情報。主に内蟲体で使用する(文書の形態と部位)。
考察 生物学的情報と歴史学的情報を融合して過去を復元した内容。
文化的遺存種 人類による環境の変化によって本来の生息地から人工環境(しばしば文化的)へ適応したが、 本来の生息地が消滅または不明なままその人工環境と共に生息が危うくなっている種。
頻出単語 本研究専門用語ではないが、考察で頻繁に使用する用語

 

シナントロープ
人間の生活と伴って生きる野生生物のこと。

コスモポリタン
世界中で見られる生物種のこと。汎存種。